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[ コラム ] 2010年01月08日

 あけましておめでとうございます。初詣でには行かれただろうか。いにしえの時代、こうした神事用に造られていたのが、口噛み酒である。澱粉質原料から造られる酒の一つの原始型といえる。

 口噛み酒は、穀類に代表される澱粉質原料を人間の唾液中の分解酵素(アミラーゼ)によって糖化し、自然発酵で酒としたものである。インカの口噛み酒であるチャチャは、冠婚葬祭、戦勝用であったし、台湾でも祭礼時に造ったり、沖縄でも19世紀まで神酒として造られていた。アイヌでも熊祭りで使ったという。

 チャチャの原料はトウモロコシだが、米や小麦、南太平洋ではキャッサバなどが使われている。面白いのは、その口噛み酒の分布である。

 ポリネシア−ボルネオ−沿海州−東南アジア−台湾−沖縄−日本
 モンゴル−東中国−北海道
 中南米−アンデス

 ということになるようだが、いわゆる環太平洋地域に分布していて、中近東やヨーロッパには見られないことだ。

 一説には、モンゴロイドが極北の地を通り、ベーリング海峡を越え、北アメリカ、そして南アメリカに達する経路と、南に下ってミクロネシア、メラネシア、ポリネシア、南米の海へ移動した経路と、この口噛み酒の伝播地とが一致しているという。口噛み酒は、モンゴロイドの酒といわれるゆえんである。

 我々の祖先でもあるモンゴロイドの人たちは、狩猟生活をしていた時には酒を持たなかったが、農耕生活に入るに従って口噛み酒を造るようになったという。狩猟生活が主なイヌイットやネイティブアメリカン、オーストラリアのアボリジニが酒を持たなかったのは、農耕していないので澱粉質の食料がなかったからだということだ。

 話がワールドワイドになってきたが、新年の酒の話題としては、気宇壮大で明るい気持ちにさせてくれる。遠い祖先も大変な苦労をしてグレートジャーニーに挑んだ。我々も負けてはいられない。今年一年、素晴らしい年になるように頑張ろうではないか。



[ コラム ] 2009年12月25日

 今日はクリスマス。となると、やっぱりシャンパンが相応しい。今年最後のコラムは、発泡性ワインについて。

 シャンパンに代表される高発泡性ワインは、ヴァンムスー(Vin mousseux)と呼ばれる。使われる葡萄は、フランス北東部のシャンパーニュ地方の指定畑のピノー・ノワール種、シャルドネ種またはピノ・ムニエ種。フランス各地で造られ、ロアール河畔のソーミュール(Saumur)やヴーヴレ(Vouvray)のものが有名である。ご存知だとは思うが、白だけでなくロゼもある。

 どれも瓶内で再発酵させて炭酸ガスを閉じ込めてある。瓶内圧力は約6気圧。中圧のものをクレマン(Crement)、低圧のものをペチアン(Petillant)という。

 ドイツでは、シャンパーニュに相当するのがゼクトで、リースリング種、シルヴァーナ種が使用される。イタリアではマスカットを使ったスプマンテ(Spumante)、スペインならチャレッロ種やマカベオ種、バレリャータ種などを使用したカヴァ(Cava)が有名である。ポルトガルには、マロラクチック発酵によるリンコ酸由来の炭酸ガスを閉じ込めた低圧のヴェルデ(Verde)がある。

 バーテンダーにとっては、1979年のアメリカベストセラー小説の題名である「シャンパン・ブルース」や、アーネスト・へミングウェイの著書名である「DEATH IN THE AFTERNOON(午後の死)」といったカクテルの方がお馴染みかもしれない。

 今夜あたり、シャンパンや発泡性ワインをベースにしたカクテルの注文が増えるのかもしれない。華やかな場に似合う酒だから、クリスマスだけでなく、日本のお正月にも意外と似合う酒である。



[ コラム ] 2009年12月18日

 数回にわたってアフリカの酒を取り上げてきた。もっと調べれば色々な酒があるのだろうが、とにかく情報が少ない。最後にカラハリ砂漠の酒を取り上げたい。

 カラハリ砂漠は南部アフリカに位置する。ここの住人はかの有名なブッシュマンで、彼らが造る酒があるそうだ。

 コムの実というものを水に浸してふやかし、果皮の糖分を取り出すために手で揉む。その後、滓を取り去って湯を注ぐ。これに発酵の種を加え、保温して一昼夜すると飲めるようになるらしい。

 アフリカには、以上のような珍酒も多いが、地中海沿岸のかつてフランス領であったアルジェリアをはじめ、モロッコ、チュニジアなどはワイン産地であるし、南アフリカ共和国は世界有数の一大ワイン山地である。エジプト文明ではワインもビールも古くから造られていた。

 遠く離れたアフリカの大地の酒、場の雰囲気を変える話として使えそうである。