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[ コラム ] 2008年11月14日

 既出「フランス宮廷内で初めて飲まれたリキュール」で紹介したように、カトリーヌ・ド・メディシスからフランス宮廷へと広がっていったリキュール。太陽王と呼ばれたルイ14世(Louis XIV、1638〜1715[在位1643〜1715])もリキュールを愛飲した王の一人だ。

 老齢になってからは老化予防のためにロソリ(Rossolis)というリキュールを好んで飲んだらしい。生命の水と呼ばれていたブランデーに、ムスク(じゃこう)、バラ、オレンジ、ユリ、ジャスミン、シナモン、クローヴで香りをつけたものだったといわれている。

 このロソリという名称は、イタリアのロゾリオ(サヴォナローラ医師がブランデーにローズの花の香りとモウセンゴケの味を溶かし込んだリキュール。既出「ブランデー嫌いのご婦人のためのリキュール」)が変化したという説。ルイ14世の尊称「太陽王(Roi soleil:ロワ・ソレイユ)」がなまったものという説などがある。

 この太陽王のころからリキュールの楽しみ方が広がっていった。ヨーロッパ上流階級社交界で貴婦人たちが、身に付けている衣装や宝石の色とリキュールの色をコーディネイトさせて楽しむようになったのだ。リキュールはこのころから「液体の宝石」「飲む香水」と呼ばれるようになったという。

 当然、リキュールの生産者も競って新しい色や香りのリキュールを次々に開発するようになったらしい。そういえば、ルイ14世にはこんな女性に関する言葉が残っている。「二人の女を和合させるより、むしろ全ヨーロッパを和合させることのほうが容易であろう」。女心は複雑かもしれないが、美しさを求める女心が昔も今もカクテルの発展には欠かせない。



[ コラム ] 2008年11月07日

 錬金術師を起源とするリキュールの先祖、エリクシル。薬酒としての役割があったのだから、キリスト教の修道院で発展したのもうなづける。どう修道院で盛んだったのか。気になる方も多いのではないだろうか。
 修道士たちは、朝夕の勤行の間をぬって農作業を行い、薬草の採取や薬酒調製に専念していた。もちろん、その土地によって採集できる薬草や香草が異なるし、修道士仲間の連絡で高貴薬草も購入していたらしい。だから修道院ごとに特徴あるエリクシルが生まれるのも当然のことだ。

 エリクシルは病に苦しむ信者たちに与えられ、疲れた旅人を癒すためにも使われたという。また、粗食に耐えながら戒律を守る修道士の栄養物としても支給されたらしい。そうした目的上から熱心に質の向上に努める修道士会も多かったようだ。

 6世紀に発足したベネディクト会もそのひとつだ。ドイツのバヴァリア地方オーバーアンメルガウの近くのエッテル修道院(Kloster Ettel:クロスター・エッテル)では、1330年から薬草リキュールが作られている。現在も伝統を受け継いで生産されている「Ettaler Klosterlikor:エッタラー・クロスターリケール」は、EUで産地表示リキュールとして特別扱いされている。

 同会では他にも1510年にフランスのノルマンディ地方フェーカンの修道院で生まれたエリクシルが今でも有名だ。イタリア出身のベルナルド・ヴィンチェリ(Bernardo Vincelli)が作りだしたものでエリクシル・ベネディクティンと名付けられた。現在の薬酒系リキュール、ベネディクティンの前身である。

 他にもカルトジオ会、シトー会などが熱心に生産していた。カルトジオ会では、1605年に現在のシャルトリューズというリキュールの原型が生まれていたという。

 エリクシルは、どこの修道院でも秘酒として扱われていた。神の恵みの薬酒として大切にされたのである。ほどほどであればアルコールは体に良いといわれている。度が過ぎた飲酒は、神を恐れぬ振る舞いと心しなければならないようだ。



[ コラム ] 2008年10月31日

 賢者の石。金属を金や銀に変える力を持つと考えられていた想像上の石のことだ。今はハリー・ポッターの話が有名だが、もちろん今回もリキュールにまつわる話だ。

 蒸留酒を生んだのは中世の錬金術師。蒸留酒の製法は、錬金術における「賢者の石」精錬の試みの中で偶然発見されたといわれている。そして、生まれた強烈なアルコール分を含んだ酒を「アクア・ヴィテ/Aqua vitae(生命の水)」と称した。

 つまり、「生命維持の秘薬」として用いられていたのだ。その効果を高めて秘薬を超えた霊酒に生み出すために、さらに各種の薬草を溶かし込んでいった。この植物の有効成分を溶かし込んだ(リケファケレ:リキュールの語源)酒は、錬金術師たちによって「エリクシル/elixir」と呼ばれたそうだ。

 エリクシルの由来は、アラビア語の「アル・イクシール/al-iksir」。アルはtheと同じ定冠詞。そしてイクシールが、「賢者の石(philosopher’s stone)」を意味する。

 錬金術師が調合したいろいろな薬酒をエリクシルと呼ぶようになり、リキュールの祖先が生まれたときにも、この名前が使われていたのである。賢者の石は金属を金や銀に変えるというが、リキュールまで生み出したと考えると何とも面白いではないか。

※リケファケレにまつわる話は、既出コラム「リキュールの語源」で。