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[ コラム ] 2008年09月26日

 リキュールは、蒸留酒(スピリッツ)をベースにして、そこにいろいろな香味成分を配合した甘い酒である。組成分の面から分析すると、1)ベースとなる酒類、2)芳香性原料、3)糖類、4)着色料(加えない場合もある)から成り立っている。
 そのひとつひとつについて、整理してみよう。

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1)ベースとなる酒類
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  • ブランデー
    樽熟成したブランデーを用いる場合と、未熟成の無色のブランデーを使う場合とがある。
  • ウイスキー
  • ラム
    活性炭ろ過をしたライト・ラムを使う場合と、焦げ樽熟成をしたダーク・ラムを使う場合とがあり、両者を使い分けている。
  • ウオッカ
    中性スピリッツ同様、自由な使い方ができる。
  • キルシュワッサー
    チェリーのリキュールのベースに使われることが多い。
  • ジン
    スロー・ジンのベースに、ジン原酒を使うことがある。
  • 中性スピリッツ
    原料を問わず、アルコール度数95度以上で蒸留した、純度の高いアルコール液。原料由来のクセが残っていないので、リキュールのベースとして広く使われる。

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2)芳香性原料
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  • ハーブ、スパイス類リキュールにとってもっとも重要な原料で、この原料がなければリキュールの成立は考えられないくらいだ。フルーツ系のリキュールにも微量添加されていると見ていい。
  • フルーツ類フルーツは、国、地方によって呼び名が違っている。したがって、同じフルーツを使ったリキュールでも生産国が違えば名称が違う。
  • ビーン、ナッツ、カーネル果実の種子、核、あるいはコーヒー豆、カカオ豆、バニラなど。

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3)糖類
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  • 砂糖、グラニュー糖
    普通は湯で溶かしてシロップ状にして用いるが、クレーム・ド・カシスなどベリー系のリキュールを作る場合には、そのまま用いることもある。
  • 蜂蜜
    製品によって、アカシアの花の蜜とか、ヒースの花の蜜とか選別して使う。
  • 果汁
    果汁の持つ甘さをそのまま呈味料として使う場合がある。

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4)色素類
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  • 天然色素
  • 食品添加物許可色素類

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5)その他
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 他にも、各種の有機酸類が呈味料として使われることがある。
 また、水はアルコール分を希釈するために多くのリキュールで使われる重要な材料のひとつになっている。使用される水は、無機質を含まない純水が望ましい。無機質が含まれていると色素が変調したり、オリの発生を促すからである。



[ コラム ] 2008年09月19日

 リキュールを生み出したのは中世の錬金術師である(詳しくは前回のコラムを)。その製法は、中世の修道院の僧侶に受け継がれた。僧侶たちは、朝夕の勤行の間に付近の野山から薬草や香草を集め、成分をアルコールに抽出していたという。こうして修道院ごとに特徴のあるリキュールが生み出されていたようだ。とくにフランスでは盛んで、今でもその流れをくむリキュールがフランス各地で製造されている。

 その後、近世の大航海時代になると新大陸やアジア産の植物、とくに香辛料(スパイス)や砂糖が利用できるようになって、リキュールの原料は一挙に多様化してきた。

 さらに、18世紀頃になると医学が進歩し始め、蒸留酒やリキュールに対して医学的効果を求めることがなくなってきた。そのため、薬酒的なものに代わってフルーツの香味を主体とした甘美なリキュールが台頭してきた。代表的な例が、17世紀末期にオランダで生まれたキュラソーというオレンジ風味のリキュールだ。

 以降、各種フルーツの香味を活かしたリキュールが次々に開発されことになる。

 19世紀後半には、イギリスで開発された連続式蒸留機の普及によって、高濃度アルコールをベースに洗練された味わいのリキュールが作られるようになる。現代では、食品化学工業の高度な発達も加わって、高品質のリキュールが数多く製品化されている。

 ちなみに日本にリキュールが紹介されたのは豊臣秀吉の時代らしい。当時の利久酒がリキュールだともいわれている。史実としてハッキリしているのは1853年、黒船来航の時である。「米国船サクスハエナ号に浦賀奉行を迎えたペリー提督は、さまざまな酒を出してもてなしたが、とりわけリキュールは一滴も残さず飲みほされた」との記録があるそうだ。

 種類が多く、なかなか全貌を把握しづらいリキュールの世界だが、歴史的な流れはすんなりと頭に入っていく。この一杯のカクテルにも、さまざまな歴史が潜んでいる。そう考えると、バーで過ごす時間とは、なんとも贅沢な時間である。



[ コラム ] 2008年09月12日

 リキュールの起源は、紀元前。古代ギリシャの医聖ヒポクラテス(Hippokrates, B.C.460〜B.C.375頃)が作ったといわれている。ワインに薬草を溶かし込んで、一種の水薬をつくったということらしい。
 しかし、以前このコラムの「日欧米のリキュール定義」で書いたように、欧米では醸造酒ベースの混成酒は醸造酒の一種と見なすのが一般的である。つまり、ビールをベースにしたらビールの一種、ワインをベースにしたらワインの一種と考え、リキュールはスピリッツをベースにしたものと考えられている。では、スピリッツをベースにした混成酒を創造したのは誰だか、ご存じだろうか。

 現在のリキュールの起源は、ブランデーの祖でもあるスペイン生まれの医者兼錬金術師のアルノー・ド・ヴィルヌーヴ(Arnaud de Villeneuve, 1235〜1312年頃)と、ラモン・ルル(Ramon Lull, 1236〜1316年頃)の二人だとされている。スピリッツにレモン、ローズ、オレンジの花、スパイスなどの成分を抽出して作ったらしい。

 蒸留酒づくりは、中世に錬金術師たちが生み出した技法である。ラテン語でアクア・ビテ(Aqua vitae, 生命の水)と呼んで、生命維持のための薬酒として蒸留酒は用いられていた。そして、さらに生命維持効果のある霊酒を作りだそうとして、蒸留の際に各種薬草や香草類を加える工夫を行った。植物の有効成分が溶け込んでいるので、こちらのほうはラテン語でリケファケレ(Liquefacere, 溶け込ませる)と呼んだ。

 このリケファケレがリキュール(Liqueur)という名称の語源になっている。リキュールは中世の錬金術師たちが生み出した蒸留酒のバリエーションとして生まれたのだ。