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[ コラム ] 2010年01月22日

 バイブルの中にもパーム椰子の酒が登場するという。それくらい古くから飲まれてきた酒である。椰子は熱帯、亜熱帯各地に様々な種類が分布していて、2000年前にプリニュウスが約49種類あると記述しているほどだ。

 当然、椰子酒の原料となる椰子も様々である。北アフリカから中東、インドにかけては棘椰子の酒が造られ、熱帯アフリカではラフィアヤシ、アブラヤシなど様々な種類の椰子が酒造りに利用されている。東南アジアからミクロネシア、カロリン諸島、メラネシアの一部にかけては、サトウヤシ、ニッパヤシ、ココヤシなどが酒造りに利用されたようだ。

 実は、椰子酒は実の汁ではなく花の汁で造る。マルコポーロも実から汁をとると勘違いしていたらしい。汁の採り方に関してはいろいろあるようだ。「花の周りの大花包を刺し通すと、シロップ状の液が出る。これを集めたのがパーム酒である」「椰子の花軸が30〜40センチメートルぐらいに伸びた頃、周りにロープを巻きつけて結び、その先端を切断し、そこに容器を取り付けておくと、汁液が溜まる。2〜3日で酒になる」などの記述がある。

 ギリシャのヘロドトスは「古代のエジプト人は、ミイラを作る際に、パーム椰子の酒を使った。内臓を取り出した後の洗浄に使った」と記している。パーム椰子の実は、エジプトからオリエント一帯にかけて人々にはなくてはならない食料資源だった。それを原料にした椰子酒と没薬、肉桂、その他のスパイスの香膏がミイラ作りに不可欠であった。



[ コラム ] 2010年01月15日

 蜜酒も神話に出てくるぐらい古い酒である。現在でも飲まれている酒であるが、蜂蜜から出来ているせいか、ワインやビールほどメジャーに飲まれていない。

 メソポタミアや古代エジプトには既に養蜂が普及していたという。ヨーロッパの岩絵にも描かれているようだ。中国では7世紀には蜜酒があったとされ、エチオピアやケニアにも登場している。

 中世でも蜂蜜は簡単に手に入ったようで、貯蔵がきくので家庭でも蜜酒は普通に造られていたようだ。蜂蜜を薄めただけでは酵母にとっては栄養分が不足して発酵しにくいので、さまざまな果汁が混ぜられるようになった。

 蜂蜜にブドウ汁を加えたものをピィメント(Pyment)、リンゴ汁を加えたものをシスター(Cyster)、麦芽の諸味を加えたものをメテグリン(Metheglin)と呼ぶ。イングランドではミード(Mead)としてピィメントの一種を造っている。

 蜜酒が登場する話はけっこう多いようだ。特に有名なものとして北欧神話の中に次のような話がある。

 アスガストの神々とヴァニールという海の国の神々の間で戦争が起きた。長い戦いの末に仲直りの人質として海の国からニオルド親子、アスガルドからはヘニールが選ばれ、平和の印に一つの壺の中に唾をはき、その唾液でクワシール(知識という意味)という人間をつくった。クワシールは世界を旅して人々に知恵を授けていたが、腹黒い小人の兄弟に殺され、その血を二つの大壺と一つの鍋に入れ、蜂蜜を混ぜて蜜酒をつくった。この蜜酒は不思議な力を持っていて、飲むと詩人になって美しい歌がつくれるようになるという話である。

 また、天上のワルハラという大広間の上に覆いかぶさったイグドラシル(トリネコ)の梢にヘイドルンという一頭の牝山羊がいて、その大きな乳房から無限に蜜酒をほとばらせ、主神オーディンがご馳走と蜜酒で宴会をするという場面もある。

 蜂蜜に関しては、古代エジプトの物語が話のネタになるだろう。蜂蜜の起源の話だ。

 昔、ある時にラー神が涙を流した。すると、その落ちた一滴の涙が一匹の蜂に変わった。蜂はすぐに巣を作り、忙しく花の間を飛び回って蜜を集めた。こうしてエジプト人は蜂蜜を知ったという。

 蜜酒もワインやビールと同様に、人間の歴史とともに歩んできた酒である。しかし、今では蜜酒ベースのカクテルぐらいでしか、飲む機会がないようだ。そんな時、こうした神話を添えてあげたいものだ。



[ コラム ] 2010年01月08日

 あけましておめでとうございます。初詣でには行かれただろうか。いにしえの時代、こうした神事用に造られていたのが、口噛み酒である。澱粉質原料から造られる酒の一つの原始型といえる。

 口噛み酒は、穀類に代表される澱粉質原料を人間の唾液中の分解酵素(アミラーゼ)によって糖化し、自然発酵で酒としたものである。インカの口噛み酒であるチャチャは、冠婚葬祭、戦勝用であったし、台湾でも祭礼時に造ったり、沖縄でも19世紀まで神酒として造られていた。アイヌでも熊祭りで使ったという。

 チャチャの原料はトウモロコシだが、米や小麦、南太平洋ではキャッサバなどが使われている。面白いのは、その口噛み酒の分布である。

 ポリネシア−ボルネオ−沿海州−東南アジア−台湾−沖縄−日本
 モンゴル−東中国−北海道
 中南米−アンデス

 ということになるようだが、いわゆる環太平洋地域に分布していて、中近東やヨーロッパには見られないことだ。

 一説には、モンゴロイドが極北の地を通り、ベーリング海峡を越え、北アメリカ、そして南アメリカに達する経路と、南に下ってミクロネシア、メラネシア、ポリネシア、南米の海へ移動した経路と、この口噛み酒の伝播地とが一致しているという。口噛み酒は、モンゴロイドの酒といわれるゆえんである。

 我々の祖先でもあるモンゴロイドの人たちは、狩猟生活をしていた時には酒を持たなかったが、農耕生活に入るに従って口噛み酒を造るようになったという。狩猟生活が主なイヌイットやネイティブアメリカン、オーストラリアのアボリジニが酒を持たなかったのは、農耕していないので澱粉質の食料がなかったからだということだ。

 話がワールドワイドになってきたが、新年の酒の話題としては、気宇壮大で明るい気持ちにさせてくれる。遠い祖先も大変な苦労をしてグレートジャーニーに挑んだ。我々も負けてはいられない。今年一年、素晴らしい年になるように頑張ろうではないか。