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[ コラム ] 2010年03月19日

 古代から愛用されてきた飲食物に体に悪いものはないというが、単にそれだけで世界中に広まるものでもない。やはり、美味しいという要素が必須ではないだろうか。

 アステカで初めてチョコレートドリンクを飲んだスペイン人にとっては、衝撃的な苦さだったようだ。ジロラモ・ベンゾーニという人物が1565年に書いた「新世界の歴史」という本の中で、チョコレートは「ブタにふさわしい苦い飲み物」と記述されている。彼らの間では蜂蜜を入れて、甘くして飲む方法が流行して、この飲み方が上流階級で人気となっていったようだ。

 チョコレートはヨーロッパでも南米同様に上流階級の飲み物として認識され、やがて現在のように社交の集まりでホットチョコレートを楽しむようになった。事実、フランスではルイ14世の時代、ホットチョコレートを飲むために招待されることは名誉なこととされていた。ちなみにこの会は午前10時ごろに開催されるのが普通だったようで、招いた主人はベッドにはいったままだったという話もある。

 スペインではキメが粗く砂糖の入ったチョコレートのかたまりが飲料用に売られていて、朝食はチュロスと呼ばれる砂糖をまぶした細長いドーナッツとホットチョコレートが定番だそうだ。この習慣は、1600年代からあまり変わっていないと言われている。

 日本人の場合、チョコレートといえば、なんとなく固形のものを思い浮かべてしまうのではないだろうか。気分を心地よく落ち着かせ、楽しませてくれる飲み物。それが、もともとのチョコレートの姿のようだ。



[ コラム ] 2010年03月12日

 健康増進と強壮効果によってマヤ人もアステカ人もホットチョコレートには魔法の力があると考えていた。

 マヤ人はカカオの神を崇拝し、この飲み物を多くの儀式で使っていた。結婚式では新郎新婦はチョコレートドリンクを交わし、子供はカカオ水で洗礼を受けていたという。年に一度、生贄の儀式があったアステカでは、死の直前の数週間は生贄に選ばれた者に精神安定剤としてチョコレートドリンクが与えられたそうだ。

 アステカ人がスペイン人植民者にチョコレートが健康に良いと教えたことによって、チョコレートドリンクはヨーロッパに伝わった。

 スペイン国王フェリペ2世の主治医フランシスコ・フェルナンデスは、解熱剤や腹痛治療、猛暑時の冷却用としてチョコレートを勧めたという。それ以外にも消化促進剤としても飲まれたようだ。1650年頃にはイギリスに伝わったといわれ、病気回復、体力維持にも効果があるとされた。

 19世紀にはフランスに伝わり、ショコラティエで薬剤師でもあったドゥボーブ・エ・ガレがピストル型の薬としての効用のあるチョコレートを販売して有名になった。医者にも支持されて、神経性胃炎、食事療法、真性コレラの予防、回復期の健康増進に使われるようになった。

 もちろん、現代においてもカカオ・ポリフェノールの効果として、抗酸化作用、脳の活性化作用、抗うつ効果、心臓病予防などが話題になっているのはご存じの通りである。



[ コラム ] 2010年03月05日

 約600年前、アメリカ大陸を発見したことで有名なコロンブスが初めて見たカカオ豆は、さまざまな売買のために使われる貨幣だったという。

 16世紀にアメリカ大陸に渡ったスペイン人の記録によると、ウサギ一匹なら10粒で交換されていたらしい。また、1545年のメキシコ・トラクスカラでのカカオ豆に基づく商品価値が記録に残っていて、次のような記載がされている。

 小ぶりのウサギ1羽=30粒
 収穫したてのアボカド1個=3粒
 完熟アボカド1個=1粒
 大きめのトマト1個=1粒
 トウモロコシの皮に包まれた魚1尾=3粒

 健康増進と強壮効果があったカカオ豆は庶民の間では、金の価値があったとされる。一般人が飲むことは禁止されていたのだが、富裕層は、バニラやチリペッパーなどのスパイスの風味を加えたホットチョコレートにして飲み、薬としての効果を楽しんでいたようだ。

 19世紀の産業革命を経て、大衆の間でチョコレートが人気になってきたとき、カカオ豆の価値が急上昇して純金のような高価格になることもあったという。

 コンビニで常時置いてあるチョコレート。それだけ身近かな商品となっているが、その世界は奥が深い。